16.座敷童子に対する看護
「座敷童子さーん……」
「名前もあるの。りょうくん」
「えっ、男の子なの?っていうか思ったより現代的な名前!」
「そう……」
「りょうくーん……」
「……」
「……」
「……」
「えっ、と……
「上に乗らなかったら、いいよ」
「りょうくん、上に乗らないであげてくださーい。……
「ありがとう」
看護師が、情報収集をして、アセスメントをして、計画を立てて、
1週間半ぶりに訪問した利用者さんに、褥瘡が出来ていた。
だけど。
こんな部位、そうそう圧迫されないし……え?腹臥位?まさか
疼痛の有無確認。ない。
「これ、どうしたんですか?結構赤くなってますけど」
手持ちのフィルムドレッシングを貼って、まぁ、
「座敷童子が乗ってた……」
幻覚が見えてたのは前々からだけど、
発声も少しずつ弱くなってきている。俗にいう蚊の鳴くような声。TVのワイドスクランブルの音声が大きくて聞き取りにくいこともある。しかし今日は、VTRにいく前の、スタジオからほんの一瞬音声が途切れた隙にそう聞こえた。小さく、だけどハッキリと。暖房がごぅ、と音を立てて、TVは新型コロナウイルス感染拡大のVTRに移行した。
意外と、座敷童子がおうちにいるお宅は珍しくないようだ。疾患の症状、または薬剤の副作用等の幻覚で見える子ども。以前も自宅で女の子が遊んでいたという利用者さんがいた。次見かけたら座敷童子ですね。って言ってあげたい、いい家だから出るんですねって言ってあげたいとは思ってた。
質量のある座敷童子による褥瘡発生という弊害にまでは思いを巡らせていなかった……。
「お、……
重かったんですね……」
予想外の発言に対して返事をするのに、たっぷり時間をかけてしまった。
「重かった」
「それは大変でしたね。しばらく乗ってたんですか?」
「そう」
「どいてって言わなかったんですか?」
「言ったけど、聞こえなかったみたい」
「あー……、なるほど……」
「のぞみさん言っておいて。隣の部屋にいるから」
「えっ、今?!?!いるんですか……?」
そして冒頭のやり取りである。
「ありがとう」
わかりにくいけど、利用者さんが笑ってくれた。折角なのでこれも看護だって思うようにする。
「いえいえ。次は乗られないと良いですね」
畳の部屋は暖房が効かないので、うっすら寒い。冷気が流れてくる。いると言われたらいるような気がして、寒さからか座敷童子からかはわからないけど利用者さんをまもるために肩まで布団をそっとかけた。